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職務手当が残業代?!

“職務手当が毎月出ているから、どれだけ残業したって残業代は出ない”と思っている、または、“職務手当を残業代として支給しているから残業代は出ない”と説明をされていることからどれだけ残業をしても残業代は出ないと思っていませんか。
そこで、今回は職務手当の性質について説明をし、職務手当の支給がある場合に残業代は請求できるのか、以下説明をしていきます。

職務手当とは

職務手当とは「特定の職務について必要とされる技能や技術、資格、責任などの程度に応じて支給される手当」のことです。
雇用契約や就業規則に「職務手当は○○として支給する」と記載されている場合が多いかと思います。

技能や技術って何?という疑問が湧いてくるように、職務手当はどういった趣旨のものなのか、どこまでの範囲のことを指すのか、いったいいくらになるのかといった内容は会社によって異なります。
もっとも「職務手当」という名称からして、その職務の性質上要求される技術や資格、責任等が考慮されてその趣旨で支給されていることが多いかと思いますが、職務手当の詳細な内容を知りたい場合は会社の就業規則や雇用契約書を確認する必要があるでしょう。

よく例に挙げられるのが介護職の職務手当です。
介護職員として働く人に対する手当なのですが、介護士の資格そのものだけでなく夜勤手当などの総称となっている会社もあるそうです。
これは職務の性質からして残業が当然見込まれることから、職務手当を残業代の趣旨で支給する旨が定められているケースが多いためだと考えられます。

他の例を挙げると、看護師は役職が付くまでは職務手当がつくケースはそう多くないと言います。役職手当(後述)や管理職手当、師長手当など責任ある役職の対価として支払われます。

では介護職員のように残業代をひっくるめて支給されているといった場合はきちんと残業=時間外労働をした分が全額支払われているのでしょうか?
この職務手当が都合良く使われていないかどうか確認したことはありますか?
次の役職手当の解説の中で最低賃金の計算方法を載せますので、まずはそこで最低賃金を下回っていないかどうかを確認しましょう。
また、実際に働いた時間分の手当がもらえているかどうかもチェックしておいた方が良いでしょう。

役職手当とは

職務手当と似ている手当に役職手当があります。
職務手当との違いを確認しておきましょう。

●役職手当とは
役職とは主任、係長、課長、部長、執行役員、取締役、代表取締役など重い役割や責任を負った人のことを指します。会社によってはチーフとかマネージャーという呼び方をするところもあるでしょう。
役職手当はそれぞれに与えられた役職に応じて支給される手当のことです。
あらかじめ金額が決められており、昇進して責任が重くなっていくにつれて手当は高額になっていきます。ただし取締役以上など、ある程度の管理職になると「管理監督者(「労働者」の扱いではなくなる)」になるため残業代は支払われなくなります。

会社の規模などによって異なりますが、参考までに役職手当の相場は次のようになっています。
・主任クラス…5,000~10,000円
・係長クラス…10,000円~30,000円
・課長クラス…50,000円~60,000円
・部長クラス…70,000円~90,000円

残業代以外にも管理監督者に対しては
・休日手当を支払わなくて良い
・休憩時間を設けなくて良い
・週1回以上の「法定休日」を設定しなくて良い
・労働時間に上限を設けなくて良い
ということが可能になります。
それだけの責任があることはもちろん、一般の従業員以上に地位や給料の待遇が良い、権限を持っているなどきちんと理由が伴います。

●役職手当に残業代が含まれている場合
ではもらっている役職手当はその役職と職務内容の対価としてきちんと支払われているのでしょうか?
よく問題になるのがいわゆる「名ばかり管理職」です。
名ばかり管理職とは残業代を抑えるために役職を与えられ、役職手当でごまかされていることです。「役職手当があるから残業代は支給しない」といったブラック企業があるのが現状なのです。

役職手当に違法性があるかどうかを確認してみましょう。
①就業規則
まず就業規則に「役職手当は残業代に充当する」などの記載があること、その上で「役職手当を超える労働をした場合は時間外手当(残業手当)を支給する」といった内容が記載されていることが前提です。
そのためそもそも記載されていないとか就業規則がどこにあるのか周知されていない(この時点で労働基準法第106条に反している)というのであればその会社は論外でしょう。

また、就業規則に「役職手当は5万円とする(残業代を含む)」という記載があったとします。この5万円のいったいいくらが役職手当で、いくらが残業代なのでしょうか?
仮に残業代が1時間1,500円だった場合、33時間以上残業をすると5万円を超えます。40時間残業をしたとしたら、役職手当などついておらず通常の残業代以下しかもらえないということになってしまいます。
このような規則は「5万円全額が基本給」とした判例もあります。

当然、役職手当を超える残業をしたのに残業代を支払わないという場合は違法と判断され残業代を請求できる可能性があります。

②基本給が最低賃金を下回る
月給から役職手当を引いたものを時給計算したら、各都道府県の最低賃金を下回っているというケースがあります。要は役職手当で給料をかさ増ししてごまかされたパターンです。

では最低賃金を計算してみましょう。
例えば東京都で役職手当をもらって働いている人(Aさん)がいて、その方の月給が以下の通りだったとします。
基本給:15万円
役職手当:5万円
通勤手当:0.5万円

そして月給制の最低賃金の計算方法は次の通りです。
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
※月給は総額から通勤手当や時間外手当などを引いたもの。役職手当や職務手当は月給に含まれる。

さて、Aさんが1日平均10時間働いていた場合どういった計算になるかというと
(200,000×12ヶ月)÷(250日×10時間)=960円
となります。
2020年の東京都の最低賃金は1,013円です。
つまり、ぱっと見の金額だけだとそれなりにもらっているように感じますが、結果的には最低賃金以下で働いているということになります。

最低賃金以下で働いているということは会社側は違法な働かせ方をしているということになりますので、残業代を請求することができる可能性があるのです。

余談ですが肩書きが付いている人は固定残業代、いわゆる「みなし残業」の制度を導入されていることもあるでしょう。みなし残業は「20時間の残業をすると想定して毎月5万円支給する」といったものですが、みなし残業も考え方としては同じです。みなし残業代で月給をかさ増ししているけれど実際の残業時間は想定時間を上回るという場合や残業代を除くと最低賃金を下回るという場合があります。

残業代として支給されている場合

ここまで見てきたのでお分かりだと思いますが、雇用契約書や就業規則に職務手当や役職手当に残業代を含むと規定されているからといって、直ちに残業代の支払いが有効と判断されるわけではありません。
毎月固定の職務手当は有効な残業代の支払いであるというためには以下の要件を満たす必要があります。

・職務手当が労働条件とされていることという記載が、就業規則または個別の労働契約にある

そもそも、職務手当を残業代として支給する旨の使用者と労働者の合意が必要です。

所定労働時間の対価にあたる基本給の部分と、時間外労働の対価にあたる部分が明確に区別されていなければならない

これは、従業員が自分の残業代がいくら支払われているか計算をして判断することができるために、どの部分が基本給でどの部分が残業代の部分なのか判断できることが必要ということです。

以上の要件を満たさない場合は残業代の支給として有効とは認められず、通常とおり、所定労働時間を超えて労働した分について、未払賃金を請求することができます。
またこの場合、職務手当は時給を計算する際の基礎賃金に含めて計算されるため、時間単価が上がることになります。
会社側が“職務手当を残業代として支払っているため残業代は既に支払済みであり、未払い残業代はない”と残業代請求に対して反論をしてくる場合がありますが、この場合は上記の要件に従って有効な残業代の支払いといえるかどうかが判断されます。

本当に管理監督者の役割を与えられているのか?

前述した管理監督者ですが、自分が役職手当を与えられるだけの充分な立ち位置を与えられているかどうかを判断することはできるのでしょうか?

労働基準法上の管理監督者は「時間外勤務をさせた場合は残業代の支給をしなければならない」という労働基準法上の原則の例外ですから、厳格に判断がなされます。
会社から管理監督者と位置づけられたとしても、それが労働基準法上の管理監督者とはいえず、実際は残業代の支払い義務がある場合があります。
具体的には、労働基準法上の「管理監督者」は、通達により、“労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限になじまない者をいう(昭和 22年9月13日付発基17号、昭和63年3月14日付け基発150号)”とされており、以下の判断要素によって判断されます。

1 事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること
2 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
3 一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇が与えられていること

したがって、上記の条件に当てはまらない場合は、使用者側には、労働基準法上の管理監督者に該当しない労働者に対して残業代を支給する義務があるため「職務手当」を支給していても残業代を支給する義務があるのです。

まとめ

今回は職務手当の性質及び、職務手当の支払いがある場合でも残業代を請求できる場合があることについて説明をさせていただきました。固定残業制は、正しい知識をもとに運用されていないケースも多々あります。また、管理監督者についても法律上の管理監督者と一般的に使用されている管理者とが必ずしも一致しないため、実際は労働基準法上の管理監督者に該当しないにもかかわらず、管理者になったことから残業代は出ないと誤解されている場合もあります。「職務手当」が支払われており、残業代が支払われていないことに疑問がある場合は、今回の解説をもとに雇用契約書や就業規則を今一度ご確認ください。