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過労死とは

厚生労働省は、過労死等防止推進法第2条によって過労死等を次のように定義しています。

「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする死亡やこれらの疾患のことです。

特に長時間労働を原因として脳疾患や心臓疾患を発症して亡くなったり、過度のストレスで精神障害を発症して自殺に至ってしまったりするケースが多くなっています。

また、厚生労働省が公表した「過労死等の労災補償状況」によると、2020年の労災補償請求件数は以下とおりです。
●脳・心臓疾患またはそれに基づく死亡を原因とする労災補償請求件数…784件
●精神障害を発病したとする労災補償請求件数…2,051件
前年の2019年に比べると件数は減少していますが、ここ数年で見れば増加傾向にあります。

ここからは、過労死等を引き起こす基準となる「過労死ライン」や、そもそも過労死ラインを超えるような長時間労働が認められているのかなどについて、具体的にご紹介していきます。
ご自身が過労死ラインを超えて働いていないか、確認しながらご覧ください。

過労死ラインとは

まず「過労死ライン」について確認していきましょう。
過労死ラインとは、労働基準監督署が労災認定の際に用いる、脳血管疾患や心臓疾患が過重な労働により発生したのかを判断するための基準です。
厚生労働省は、長時間労働と過労死等の関係について次のように評価しています。

脳・心臓疾患に係る労災認定基準においては、週40時間を超える時間外・休日労働がおおむね月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まり、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外・休日労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる

このように、過労死ラインとは、時間外労働時間(週40時間を超える労働時間)が次の場合をいい、月45時間を超えて長くなると業務と過労死等の関係が強くなるとされています。
①1か月間に約100時間
②2~6か月間において、1か月当たり平均約80時間
この時間を超えた場合は、業務と過労死との関連性が強いと評価できるということになります。

1か月あたりの時間外労働時間業務と発症との関連性発症前1~6か月間にわたりだいたい45時間以内関連性が弱い発症前1~6か月間にわたりだいたい45時間を超える関連性が徐々に強まる100時間を超える、または、2~6か月間にわたりだいたい80時間を超える関連性が強い

過労死ラインを超えた残業による疾病は労災認定される?

労災とは労働災害の略で、従業員が業務上負った負傷や疾病に対して使用者が補償をする制度のことで、労働基準法第75条1項に定められています。
労災認定基準は、同条2項に基づいて労働基準法施行附則別表一の二に定められており、そのうち第8項、9項には以下のように記載されています。

八 長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤りゆう又はこれらの疾病に付随する疾病
九 人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病

このように、長期間・長時間の労働により脳出血や心筋梗塞等を発症した場合は労災の認定基準に該当します。
過労死ラインは、あくまでこの判断基準となる時間の目安ですので、必ずしも過労死ラインを超えていれば労災認定されるというわけではありませんし、過労死ラインを超えていなければ労災認定されないというわけでもありません。

実際に、大手スーパーマーケットの従業員が自殺し、遺族が遺族補償不支給決定の取り消しを求めた裁判では、労働基準監督署が認定した残業時間は月に最大96時間、発症前半年の平均残業時間は約76時間となっており、過労死ラインを超えていませんが、取り消しが命じられ労災認定がなされています。
ではなぜ認定されたのかというと、スーパーマーケット側がタイムカードの正確な打刻をさせずに労働をさせていたことなど、ずさんな管理体制であったことから、認定した残業時間以上に労働させていた可能性があることが理由として挙げられています(タイムカードによると毎月の残業は30時間ほどしかなかったが、その時間を超える残業をしていたことがわかる別の記録が残っていた)。

過労死ラインは判断基準ではありますが、この基準によって長時間労働と過労死等の因果関係が評価されやすくなるものです。労災認定は、過労死ラインを超えた、超えないだけでは一概に判断されないということを覚えておきましょう。

なお、労災認定の基準は、脳・心臓疾患を発症した場合と精神疾患により自殺した場合で少し内容が異なりますので、併せて確認していきましょう。

脳・心臓疾患を発症した場合

この脳・心臓疾患について、次の①か②の条件を満たしているかどうかが労災認定を受けるための基準となります。

①健康障害を発症する前の2か月~6か月の間の、1か月の残業時間の平均が80時間を超えている ②健康障害が発症する前の1か月間に残業時間が100時間を超えている場合

精神疾患により自殺した場合

精神疾患を発症して自殺に至った場合、次の①~③の条件を満たしているかどうかが労災認定を受けるための基準となります。

①精神疾患の発症前の1か月に160時間以上の残業を行った ②精神疾患の発症前の2か月間連続して、月120時間以上の残業を行った ③精神疾患の発症前の3か月間連続して、月100時間以上の残業を行った

上記の2つの基準の残業を行った場合、過労死や自殺につながる危険がある残業をしている状態といえます。
あなたはこの基準を超えていませんか?

過労死等を引き起こす病気・症状とは?

ここからは、過労を原因として起きやすい病気や症状について見ていきましょう。

脳梗塞

過度にストレスを抱えてしまうと自律神経の乱れや血圧の上昇、血糖値の上昇などが起こります。
自律神経の乱れによる血流の悪化、血圧の上昇や血糖値の上昇による血管の損傷は脳梗塞の原因となってしまいます。

脳梗塞とは、脳の血管が詰まることによって血液が運ばれなくなり、脳の細胞や組織が死んでしまった状態のことです。死んでしまった脳細胞は回復しないので、死んだ細胞などが担っていた機能や感覚は失われてしまいます。

脳梗塞の前触れとして、一時的に感覚障害や手足の麻痺、言語障害などが起こります。これらの症状を放っておくと2~3割の方に脳梗塞が起こる可能性がありますので、症状が出ている場合は速やかに医療機関を受診した方がよいでしょう。

心筋梗塞

血流の悪化は、脳だけでなく心臓にも重篤な症状を引き起こします。
心筋梗塞は、心臓を動かす筋肉(心筋)に血液が運ばれなくなることによって筋肉が壊死してしまう病気のことをいいます。心筋梗塞が起こると心臓から全身に血液を送ることができなくなり、最終的には死に至ってしまいます。

心筋梗塞の前触れとして、冷や汗をかくほどの胸痛や胸部圧迫感、胸やけが起こります。安静にしていてもこれらの症状が20分以上続く場合は発症する可能性がありますので、医療機関を受診した方がよいでしょう。

うつ病などの気分障害

気分の状態が通常の状態よりも高揚しすぎたり落ち込みすぎたりする状況が一定期間続く症状のことを気分障害と言います。
気分が落ち込みすぎて何も手につかないといった抗うつ状態を主として様々な身体症状や精神症状を引き起こすのが「うつ病」、気分が高揚しすぎる(ハイテンションになる)状態と抗うつ状態を繰り返す「躁うつ病(双極性障害)」で、この2つが気分障害に該当します。

うつ病は、精神的・身体的ストレスなどが原因として脳がうまく働かなくなっている状態で、身体症状としては倦怠感や疲労感、睡眠や食欲の異常などが、精神症状としては気分の落ち込みや気力低下、集中力の低下、希死念慮(死にたいと願うこと)などが現れます。
自然治癒や努力で治るような病気ではないので、上記のような症状が現れた場合は、充分な休養を取り医療機関を受診するなどして早急に治療をした方がよいでしょう。

過労死ラインと違法性

過労死ラインは、あくまでも労災認定のための基準であるため、過労死ラインを超える残業をさせたからといって必ずしも違法であるというものではありません。
ただし、36協定を締結せずに残業をさせた場合や、36協定を締結していても正しく時間外労働に対する対価(残業代)を支払わなかった場合は違法となります。

ここで注意したいのが「特別条項付き36協定」です。
特別条項付き36協定とは、時間外労働の上限時間を一時的に延長することができる臨時的措置のことです。
特別条項付き36協定を締結している場合は、1か月の残業時間の上限が次のようになります。

①1年の上限…720時間以内
②1か月の上限…100時間以内
③2~6か月の時間外労働・休日労働時間の合計…全ての月の平均が80時間以内

この場合も時間外労働の上限(月45時間)を超えることが許されるのは、年6回までであり、また、特別の事情がある場合にしか上限を延長できません。
この基準を超える時間外労働は違法となります。
過労死ラインを超えないように設定されていることからすると、この基準をオーバーして残業をさせた結果何らかの疾患を発症した場合は、労災認定される可能性が高くなるでしょう。

もう一つ気をつけたいのが「固定残業代」です。
「残業100時間分」などとして固定残業代が支払われているケースがありますが、このような労働契約は月45時間の残業時間の上限はもちろん過労死ラインをも超えるものであるため、公序良俗違反として無効となる可能性があります。
固定残業代については、使用者側が「固定残業代を支払っているから追加で支払わない」などと制度を悪用し、残業代を支払わないケースがあります。
支給される固定残業代が明らかに実際に行った時間外労働の時間に見合わず、残業手当や深夜手当が支払われていないという場合も残業代の未払いとなりますので違法です。

労働環境を是正する方法

1 労基署に相談する

36協定を超える残業は違法であるため、特別条項付き36協定を締結していないにもかかわらず月45時間を超える残業を強いられている場合は、労働基準監督署に指導をしてもらうことができます。
労働基準監督署への報告は匿名で行えますので、月45時間以上の残業が続くようであれば、一度労働基準監督署にご相談に行かれることをおすすめします。

2 残業代を請求する

長時間労働に対して正しく残業代を支払わない企業は少なくありません。
法定労働時間を超える労働を行った部分(残業)については通常の賃金の1.25倍、夜間労働については1.25倍、月に60時間を超えた部分の時間外労働については1.5倍以上の割増賃金を支払わなければならないと定められています(労働基準法第37条)。これらが正しく支払われなかった場合、使用者に対して6か月懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。
さらに、残業代の未払いがあった場合、裁判所が悪質なケースと判断すると、使用者に対して最大で未払い残業代と同額の「付加金」の支払いを命じることができます。

残業代請求をされた使用者は、残業代の支払いを回避するため、今後の労働時間の管理を見直すことがあります。実際、残業代を請求することによって、使用者が労働時間の管理を是正したケースは多くあります。

長時間労働を行った部分について、法律に基づいて正しく残業代が支払われていない場合は、残業代請求をすることが長時間労働を是正する1つの手段となります。

まとめ

今回は過労死ラインについて説明をさせていただきました。
過労死は他人事ではなく、身近に起きている問題です。
自分が行っている時間外労働が過労死ラインに達していないか、正しく時間外労働の残業代が支払われているかを改めて確認してみましょう。
心身の健康を今一度見つめ直し、少しでも疑問に思う点がありましたら、一度ご相談いただくことをお勧めします。