過労死について

 長時間労働が原因で過労死する場合や自殺に至るケースは後をたちません。2017年度の厚生労働省の「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」によれば、過労による脳・心臓疾患またはそれに基づく死亡を原因とする労災補償請求件数は840件、過労による精神障害またはそれに基づく自殺を原因とする労災補償請求件数は1732件となっており、年々増加傾向にあります。
 過労死は気づかない間に心身に負担をかけているという特徴があります。
 今回は、過労死ラインについて具体的に紹介しますので、自分は大丈夫か是非確認をしながらご参照ください。

過労死ライン

 
 「過労死ライン」というものをご存じですか?長時間に及ぶ労働は気づかない間に心身への多大な負担をかけ、過労死に至ることが多々あります。
 そこで、厚生労働省はこのような事態を防ぐため、過労死を引き起こす危険性のある残業時間について一定の基準を設けています。
 この基準は、労災認定をする際に、労働者の健康傷害の発生と労働の間の因果関係を判断するために使われるものです。これが「過労死ライン」です。
 では、具体的にどのような基準が設けられているのでしょうか。過労死ラインは、次の2つになります。

1.脳・心臓疾患を発症した場合

 この脳・心臓疾患について、次の①か②の条件を満たしているかどうかが労災認定を受けるための基準となります。
 ①健康障害を発症する前の2か月~6か月の間の、1か月の残業時間の平均が80時間を超えている

 ②健康傷害が発症する前の1か月間に残業時間が100時間を超えている場合

精神疾患により自殺をした場合

 精神疾患を発症して自殺に至った場合、次の①~③の条件を満たしているかどうかが労災認定を受けるための基準となります。

 ①精神疾患の発症前の1か月に160時間以上の残業を行った

 ②精神疾患の発症前の2か月間連続して、月120時間以上の残業を行った

 ③精神疾患の発症前の3か月間連続して、月100時間以上の残業を行った

 つまり、厚生労働省は上記の2つの基準の残業を行った場合、過労死や自殺につながる危険が高いと考えているといえます。
 あなたはこの基準に当てはまらないですか?

労災を受ける

 過労死ラインを超える残業をして健康障害を発症した場合は、労災認定を受けられる可能性が高いです。
 では、労災認定を受けるとどのような給付を受けられるのでしょうか。労災給付金は以下のものがあります。

1 療養給付

病気の治療にかかった費用を全額補償してもらえます。

2 休業補償給付

労災の被害者が、健康障害のために就労できず、収入を失った場合に、休業した分の補償になります。休学の60%の休業特別支給金と、給与額の20%の休業特別支給金が支払われるので、給与額の80%の補償を受けられることになります。

3 障害補償給付

  治療を続けてもこれ以上改善しない状態になった時点において、後遺障害が残った場合は、その後遺障害により将来にわたって喪失した労働能力分について、補償を受け取ることができます。

4 遺族補償給付

  労働者が過労死や過労自殺で亡くなった場合に、遺族に対して補償が支払われます。

 過労死ラインを超えていて健康障害が発生しており、まだ労災認定を受けていない場合は、労働基準監督署に労災申請をされることをお勧めします。
 また、健康障害を発生しており、過労死ラインを超えていれば、労災を受けられる可能性があるので、労災申請をされて、今後の生活費の確保をして退社するという方法も考えられます。

過労死ラインを超える残業は違法になるの?!

 以上のように、「過労死ライン」とは、あくまでも労災認定のための基準であり、「過労死ライン」を超える残業が法律上違法であるというものではありません。
 もっとも、次の場合違法になる可能性があります。

 すなわち、労働基準法は1日8時間週40時間を超える労働を禁止していますが、36協定を締結することによって、1か月45時間までの残業が可能になります。そのため、36協定を締結している会社で月45時間以上の残業を強いている場合は、違法になります。
 また、特別条件付36協定を締結している場合は、1か月の残業時間に上限がなくなります。もっとも、この場合も45時間の残業時間の上限を超えることが許されるのは、年に6回までであり、また、特別の事情がある場合にしか上限を延長できないため、この基準を満たしていない場合は、違法になります。

是正する方法

1 労基署に相談する

 以上のように、36協定を超える残業は違法であるため、特別条件付36協定を締結していない場合で、月45時間を超えて残業を強いられている場合は、労働基準監督署に指導を入れてもらうことができます。労働基準監督署への報告は匿名ですることができるので、月45時間以上の残業が続くようであれば、一度労働基準監督署にご相談に行かれてみることをおすすめします。

2 残業代を請求する

 長時間労働を強いている企業において、しっかり残業代を支払っていない企業も少なくありません。
 労働基準法は、長時間労働を抑制するために、残業代の支払いを義務付けており、残業代を支払わない場合は6か月懲役または30万円以下の罰金を課しています。残業代の不払いがあった場合において、裁判所は使用者に対して、未払い残業代と、未払い残業代と同額の付加金の支払いを命じることができます。
 そのため、残業代請求をされ、法律に基づいた残業代を支払わなければならないとなった使用者としては、法律に基づいた残業代の支払いを回避するために、労働時間の管理を見直すはずです。実際、これまで残業代請求をして、使用者側が労働時間の管理を是正したケースは多々あります。
 したがって、長時間労働を強いられており、法律に基づいた残業代が支払われていない場合は、残業代請求をすることが、長時間労働を是正する1つの手段となります。

残業代との関係

 「残業80時間分」とか「残業100時間分」として固定残業代が支払われているケースがあります。
 このような場合、“過労死ラインを超えるものであるから違法なので、このような固定残業代の契約は無効で、固定残業代としてではなくしっかり残業代を計算して支払われるべきではないか”、と思いませんか。
 これについては、現在判断が分かれているところであり、このような固定残業代の合意が、残業を例外とする労働基準法の趣旨、36協定に反し、公序良俗に反し無効であるといった判断も出ているケースもあります。
 そのため、固定残業代として月残業80時間分や100時間分出ているから残業代請求を必ずしもできないというわけではなく、就業規則の記載事情、36協定の内容、残業代の支給実態等により請求できるケースもあるので、このような固定残業代の合意がなされている場合も、残業代請求をあきらめるのではなく、一度専門家にご相談されることをお勧めします。

まとめ

 今回は過労死ラインについて説明をさせていただきました。過労死は身近に起きている問題です。労働時間と心身の健康について一度見直して頂きたいと思います。長時間労働を防ぐ対策として、少しでも疑問に思う点がありましたら、一度ご相談いただくことをお勧めします。