みなし残業制とは

 労働基準法は、労働者の労働時間を1日8時間、週40時間と定めています。しかし、外回りの営業職や在宅勤務など、事業や業務の性質によっては、会社側が労働時間を管理することが困難な場合や、会社側が労働時間を管理するよりも労働時間の分配を労働者側に任せた方が合理的な場合もあります。このような場合に備えて、労働基準法は実際に働いた時間とは関係なく、所定労働時間やその業務を行うために通常要する時間を働いたものとみなして賃金が支払われるという制度を定めています。
 
 今回は、みなし労働時間制とは具体的にはどのような制度であるかについて紹介します。

みなし労働時間制の種類

 みなし労働時間制には事業場外みなし労働時間制と裁量労働制との2つがあります。以下、この2つの制度について詳しく紹介します。

事業場外みなし労働時間制

 営業職で外回りをしている場合や出張中の場合は、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を正確に把握することが難しいことがあります。労働基準法はこのような場合に備えて、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、会社は対象者について実労働時間に拘らずあらかじめ決められた時間分だけ働いたとみなすことが許しています(労働基準法38条の2第1項)。つまり、「所定時間分働いたとみなす」ということです。
 この制度が適用されると、例えば、所定労働時間が1日8時間の場合、外回り営業に実際1日6時間しかかからなかったとしても、所定労働時間の8時間働いたものとみなして8時間分の賃金が支払われます。逆に、普段は所定労働時間の8時間以内で終えられる仕事であるにもかかわらず、10時間かかってしまったとしても、労働時間は8時間とみなされるので、2時間分の残業代は支払われなくなります。

 そして、その業務を遂行するためには所定労働時間を超えて労働することが通常必要になる場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされることになります(同条同項ただし書)。つまり、所定労働時間が8時間とされていても、その業務が10時間要するものであるなら、「10時間」をみなし労働時間としなければならないということです。

 この場合は、業務の遂行に通常必要とされる時間は、事業場の過半数組合、そのような組合がない場合は過半数代表者との労使協定により定めなければなりません(同項同条2項)。

事業外みなし労働時間制適用の際の残業代

 事業外みなし労働時間制が適用されている限り、何時間働いても所定労働時間分だけ働いたとみなされるので、残業手当が一切つかないのではないと思っていませんか。
 事業外みなし労働時間制は、上記のとおり、みなした労働時間が所定・法定労働時間(1日8時間)を超過している場合は、その分についての残業手当はしっかりつきます。つまり、上記の例のように所定労働時間8時間、通常必要とされる時間労働が10時間だとすると、2時間分の残業代が支払われるということです。

事業外みなし労働制の要件

事業場の外で労働がなされること

 労働の一部が事業場外で行われ、残りが事業場内で行われる場合は、事業場外での労働についてのみ、みなし労働時間として計算がなされます(昭63.3.14基発150号)。つまり、例えば、午前中は自宅から営業先に直行し、午後5時以降事業場に戻って社内で業務を行った場合、午後5時までは所定時間労働したものとみなされ、それ以後は実労働時間で計算して、両者の合計が1日の労働時間となります。

労働時間を算定しがたいこと

 労働時間を算定しがたいかどうかは、使用者の具体的な指揮監督や時間管理が及ぶか否かなどにより判断されます。業務を行うグループの中に時間管理者が含まれる場合や、随時使用者の指示を受ける場合、訪問先や帰社時刻などにつき具体的な指示を受けてその指示どおりに業務を行い、その後事業場に戻る場合は、この要件を充たさないとされています。したがって、外回りであったとしても会社から細かい指示の下で働いていたり、時間配分が決められているなど労働時間の算定が可能である場合は事業場外労働みなし制の適用はできません。

裁量労働制

 次に、労働者自身で時間配分や仕事の進め方を決めて働いた方が合理的だとされている場合について、みなし労働制が認められているものについて紹介していきます。裁量労働制は、事業外みなし労働時間制と異なり、いくら働いても、みなされた時間分働いた、とされる制度です。

企業業務型裁量労働制

 企業において企画、立案、調査、分析を行う業務に就いている労働者について、労働者自身で時間配分や仕事の進め方を決めて働いた方が合理的だとして、認められた制度です。
 労使委員会を作り、企画業務型裁量労働制を実施するための決議をし、決議後に労働基準監督署に届出を提出し、労働者本人からの同意を得ることでこの制度を実施することができます。
 事業場外みなし制では「所定時間分働いたとみなす」場合と「通常その業務を遂行するのにかかる時間分労働したとみなす」場合があります。前者の場合は労使協定は不要で、就業規則に定めておけばよく、後者の場合は、労使協定が必要です。

専門業務型裁量労働制

 対象とされる業種につき、1日8時間週40時間という縛りにとらわれず、あらかじめ労使協定によって定めた時間、労働したと認めることができるとされる制度です。労使協定で定めた時間を超過した場合や、定めた時間に至らない場合であっても等しく協定で定めた時間分働いたことになります。
 専門業務型裁量労働制を実施する場合は、まず労使協定を締結して、労働基準監督署長に書類を提出する必要があります。
 専門業務型裁量労働制が採用されている場合は、労使協定で定めた時間を超過したり、労使協定で定めた時間に至らなかったとしても、協定で定めた時間分働いたことになります。
 

対象とされる職種

  1. 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  2. 情報処理システムの分析又は設計の業務
  3. 新聞、出版の事業における記事または放送番組、有線ラジオ放送、有線テレビジョン放送の放送番組の制作の取材または編集の業務
  4. 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  5. 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  6. コピーライターの業務
  7. システムコンサルタントの業務
  8. インテリアコーディネーターの業務
  9. ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  10. 証券アナリストの業務
  11. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  12. 大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
  13. 公認会計士の業務
  14. 弁護士の業務
  15. 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
  16. 不動産鑑定士の業務
  17. 弁理士の業務
  18. 税理士の業務
  19. 中小企業診断士の業務

みなし労働時間制が適用される場合の深夜割増賃金、休日手当

 みなし労働時間制が適用される場合においても、休日・深夜労働に関する割増賃金の支払については使用者は義務を免れないため、条件をみたせば休日手当、深夜手当という割増賃金が支給されます。例えば、裁量労働制の場合は、深夜(22時~5時まで)に労働させたとしても残業にはなりませんが、深夜労働に関する割増賃金は発生します。

まとめ

 以上のとおり、みなし労働制が採用されているからといって一切残業代が支給されないわけではありません。そもそも、みなし労働制が採られているからといって残業代が支払われていないけど、実際は要件を満たしておらず、みなし労働時間制を適用できない場合も多々あります。少しでも疑問に思う点がありましたら、一度ご相談いただくことをお勧めします。