タイムカードがなくても大丈夫! 会社にタイムカードを開示させる手法

残業代を請求する際,必要となるのは,タイムカードや日報など労働時間を裏付ける資料です(他にも,就業規則,賃金規程,賃金台帳など)。
多くの方は,タイムカードのコピーなどを手元に残してはいないと思いますが,それでも心配はありません。
以下の方法で,タイムカードを会社から提出してもらうことが可能です。

1 弁護士からの催告書にて開示を要求する

  弁護士が残業代請求を行う場合,最初に行うのが,会社に対する内容証明郵便の送付です。残業代を請求する意向があることを示して,時効の進行を一時的に中断し,また,タイムカード,就業規則,賃金規程,賃金台帳など,残業代の算定に必要な資料の開示を会社に求めます。

多くの会社は,この要求に応じて,資料を開示してきます。特に,労働事件の使用者側に慣れた弁護士が会社側に就けば,無用なやりとりをさけるためにも,素直に開示に応じる場合が多いでしょう。

2 民事訴訟法132条の2に基づく照会

  中には,1の要求を無視して,開示に応じない会社もあります。また,この手の事案に慣れていない弁護士が会社側に就くと,開示に応じてこない場合もあります。その場合,当事務所では,民事訴訟法132条の2という条文に基づいて,訴訟予告通知を行うとともに,必要な情報を開示するように求める照会書を送付します。この手続は,いままではあまり多用されていなかったものですが,1の要望とは異なり,会社側に回答の義務があること,回答しない場合,そのこと自体が不法行為となって損害賠償の対象となりうること,弁護士がこれに回答しない場合は弁護士倫理違反となりうること(東京弁護士会の会報LIBRA2008年10月号 には,同照会について,「回答義務に違反して回答しない場合には,訴訟においてそのことを有利に利用すべきであるし,回答義務違反を理由として不法行為に基づく損害賠償請求も検討すべきである。弁護士が回答義務に違反した場合には弁護士倫理違反となり得ることも注意を要する。」との記載があります。)から,より強制力のある手段として有用だと考え,当事務所ではよく利用しています。
  会社側に弁護士が就いている場合,1の要望には応じなくても,この手続を取れば開示に応じる場合が多いです。

3 推定計算での提訴

  それでも会社が開示に応じない場合,任意の話合いは困難ですので,訴訟を提起することになります。といっても,細かな資料がない状況なので,記憶に基づく推定計算で訴訟を提起し,裁判手続きの中で,タイムカードの開示を求めることになります。
  通常,裁判前には弁護士が就いておらず開示に応じなかった会社も,裁判を起こして弁護士が就いた場合,裁判所からの求めに応じてタイムカードの開示に応じる場合が大半です(ちゃんとした弁護士であれば,開示を拒んだとしても,次に説明する「文書提出命令」が出され,開示に応じざるを得なくなるということ,そうなると裁判所の印象も悪くなることを理解しています。)。

4 文書提出命令

  ところが中には,ここまで来ても開示に応じない会社もあります。
  その場合,民事訴訟法221条に基づく文書提出命令の申立てを行います。文書提出命令とは,文書の所持者(会社)に対して,立証上必要な文書(タイムカードなど)の提出を裁判所が命令する手続です。この命令に背いて,文書を開示しない場合,そのこと自体が不利に取り扱われ,原告の推定計算がそのまま認められる(真実擬制)などのペナルティが生じる非常に強い命令になります。

  タイムカードについて,文書提出命令を申し立てた場合,会社側は,「タイムカードは文書提出命令の例外文書である『専ら文書の所持者の利用に供するための文書』(民事訴訟法220条4号ニ)に当たる」との反論をしてくる場合がありますが,この反論は通常,裁判所には受け入れられません。

タイムカードは,これによって当該労働者の労働時間を推定することができ,賃金台帳の記載事項である賃金計算の基礎となる事項(労基法108条)である労働時間数を算定するに際しての重要な資料の一つとなるものです。また,タイムカードについては,労基法109条の『その他労働関係に関する重要な書類』として,同条により3年間保管することが義務付けられており,また,労働基準監督官が,同法101条1項に基づき,その提出を求めた場合には,これを労働基準監督官に対して提出することとされ,同法120条4号によって,その不提出について罰則が設けられているのであるから,このような書類は,外部の者への開示が,法令上当然に予定されているものというべきです。そうすると,タイムカードは,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書(=専ら文書の所持者の利用に供するための文書)であるということはできません(大阪高裁平成25年5月13日決定)。

したがって,会社側の抵抗にかかわらず,ここまで来れば,裁判所から文書提出命令がなされ,会社側としてはタイムカードの開示に応じざるを得なくなるわけです。

会社側に慣れている弁護士が就けば,最初からこの結論に至ることが分かっているわけなので,無用な時間の経過や裁判を避けるために,当初から開示に応じる,というわけです。