記事監修

固定残業代とは

固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を固定して支払う制度のことで、いわゆる「みなし残業」のことです。
例えば「月給30万円(うち固定残業代3万円(15時間分)を含む)」といった内容になっており、15時間の残業時間分はあらかじめ給与に含まれているということになります。

この制度は、本来は外回りが多い営業職など労働時間を把握することが困難な職種に適用される制度となっているのですが、残業代を抑えるために使われているケースもあります。
例えば、同じ月給30万円をもらっている方でも、固定残業代によって内容が大きく異なります。

Aさん…月給30万円(固定残業代は含まない)
Bさん…月給30万円(うち固定残業代5万円(30時間分)を含む)

この場合、Aさんの基本給は30万円ですが、Bさんの基本給は25万円ということになります。また、残業代が含まれているので同じように30時間残業したとしても、Aさんには別途残業代が支払われますがBさんには支払われません。

「固定残業代:3万円(30時間分)」と定められている場合には、月の実際の残業時間が30時間未満であったとしても、3万円支払われることになります。

違法な固定残業代とは

では、残業代を抑えることが悪いのかというとそういうわけではありません。
この制度を悪用して、残業代を支払わなかったり、最低賃金を下回るような働かせ方をしたりする使用者(企業など)がいるのが問題で、こういった固定残業代の使い方は違法です。
固定残業代の制度が導入されている場合は、次のポイントが満たされているかを確認することが重要です。

ポイント1 上限を超えていないか

まず、1日8時間・週40時間の「法定労働時間」を超えて労働させるためには、労働基準法第36条の定めに従って労使間で「36協定」を締結させる必要があります。

そして、36協定をしたからと言って無制限に残業をさせることはできず、上限は月45時間以内、年360時間以内と規定されています。なお、固定残業代の制度自体には上限を設けられていませんが、月45時間を1年間続けると540時間になってしまうことなどから、多くても月30時間を超えない範囲で設定する使用者が一般的だと考えられます。

過去の裁判例においても、80時間~100時間分を超えるような多額の固定残業代の定めについては、過労死を引き起こしかねない長時間労働につながるとして、公序良俗違反により無効であると判断したものが数多くあります。

固定残業代に対して、無効と判断された裁判例

東京高裁平成26年11月26日判決(マーケティングインフォメーションコミュニティ事件)

100時間という長時間の時間外労働を恒常的に行わせることが労基法の趣旨に反するものであることは明らかであるから、法令の趣旨に反する恒常的な長時間労働を是認する趣旨で、固定残業代の支払が合意されたとの事実を認めることは困難であるとして、100時間分の固定残業代の合意を認めなかった。

東京地裁平成29年10月11日判決

36協定の締結による労働時間の延長限度時間である月45時間を大きく超える月100時間以上の時間外労働に相当する固定残業代は、公序良俗に反し無効であると判断した。

東京地裁平成29年5月31日判決

月80時間を超える長時間の時間外労働を恒常的に行わせることが法令の趣旨及び36協定に反するものであることは明らかであるから、法令の趣旨及び36協定に反する恒常的な長時間労働を是認する趣旨で、固定残業代の支払が合意されたとの事実を認めることは困難だし、仮に、事実としてかかる合意をしたとしても、上記法令の趣旨に反する合意は、公序良俗に反するものであり、無効と解するのが相当であるとした。

岐阜地裁平成27年10月22日判決

83時間相当の固定残業代について、83時間の残業は、36協定で定めることのできる労働時間の上限の月45時間の2倍に近い長時間であり、しかも、「朝9時半以前及び、各店舗の閉店時刻以後に発生するかもしれない時間外労働に対しての残業手当」とされていることを勘案すると、相当な長時間労働を強いる根拠となるものであって、公序良俗に違反すると判断した。

ポイント2 就業規則に規定されているか

固定残業代の制度を導入する際には、必ず就業規則や労働契約、労働条件通知書などの文書によって従業員に周知徹底しなければなりません。
口頭説明では周知徹底したことにはなりませんので、就業規則などの文書に書かれているかを確認しておきましょう。
労働条件の明示については労働基準法第15条に定めがありますので、就業規則などに規定がないまま固定残業代の制度を利用している場合は違法となります。

ポイント3 明確に提示されているか

固定残業代がいくら分なのかは重要なポイントです。
仮に上記の例が「月給30万円(固定残業代を含む)」といった内容だったらどうでしょうか。一体月給のうち何円分が固定残業代なのか、何時間働けば固定残業代分働いたのかということが全くわかりません。そのため、固定残業代の内容が明確になっているかどうかという点はかなり重要なのです。

最高裁の判決でも、「労働契約における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条(=労働基準法37条)の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である」(最高裁令和2年3月30日 国際自動車事件第二次判決等)としており、いくらが固定残業代として払われているか分からない(判別可能性のない)固定残業は無効であるとしています。

いくら分が固定残業代として払われているか分からないような契約の場合、有効な固定残業代とは認められず、全額が(通常の賃金と同じように)基礎賃金として残業代の時給算定の基礎にすることができることとなります。

ポイント4 最低賃金を下回っていないか

各都道府県ごとに最低賃金が設定されています。固定残業代が最低賃金を下回ることは許されません。

仮に、東京都在住の方で、所定労働時間(労使間で契約した労働時間)8時間、契約内容が「月給20万円(うち固定残業代5万円(30時間分)を含む))」というものだったらどうでしょうか。
最低賃金は、基礎賃金(月給ー諸手当(※))÷1か月の平均所定労働時間の計算式で計算します。
この方の1ヶ月平均所定労働時間が160時間だった場合の最低賃金は、15万円÷160時間=937円です。
東京都の最低賃金は1,041円ですので最低賃金を下回ることになり、このような契約は違法となります。

※諸手当とは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金(ボーナス)、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(残業代)のことです。資格手当や役職手当は含まれません。

(最低賃金については、こちらで詳しく解説しています。「最低賃金の計算方法|事例付きで分かりやすく解説」

固定残業代を超える残業代の計算方法

まず、前提として残業代の計算方法を確認しておきましょう。
残業代は、1時間あたりの賃金額×残業時間×割増率で計算されます。また、1時間あたりの賃金額は、前述した最低賃金と同じく基礎賃金(月給-諸手当)÷1か月平均所定労働時間で計算します。
なお、残業代の割増率については、労働基準法第37条によって1.25~1.5倍と定められており、会社ごとに規定されています。

固定残業代を超えた残業をした場合の計算方法も、この計算式に当てはめていきます。
では、次の条件で残業をした人の残業代を計算していきましょう。

・所定労働時間:9:00~18:00(実働8時間)
・1ヶ月平均所定労働時間:160時間
・月給30万円(うち固定残業代6万円(30時間)を含む)
・家族手当等の手当は支給されていない
・残業時間:40時間
・割増率:1.25倍

・1時間あたりの賃金額:(300,000円ー60,000円)÷160時間=1,500円
・請求できる残業代:1,500円×10時間×1.25倍=18,750円

この方は、固定残業代を含む給与30万円+18,750円の残業代をもらえるということになります。

未払い残業代を請求するための相談先

労働基準監督署

労働基準監督署は、労働基準法をはじめとする労働基準関係法令を遵守を監督しています。
労働基準監督署の職員である「労働基準監督官」が持つ権限はかなり強力で、労働基準関係法令の違反が疑われる場合には司法警察官として捜査や立ち入り調査を行うことができます。
また、法令違反が認められた場合には逮捕や送検、告訴なども行えます。

そのような強力な権限を持つ労働基準監督署ですが、よほどのケースでないと速やかな対応をしてもらえないことが多いのが現実です。
速やかに対応してもらえるケースとしては、例えば、明らかな法令違反が認められるものや、使用者側の違法行為によって労働者に被害が発生していると立証することができるものなどです。

総合労働相談コーナー

全国の労働基準監督署や労働局に設置されている相談窓口です。
未払い残業代だけでなく解雇や不当な賃金引き下げ、一方的な配置転換、パワーハラスメント、いじめなど労働問題の様々な内容について相談することが可能です。

総合労働相談コーナーの担当者が受けた相談内容が、労働関係法令に違反している可能性があると判断した場合は、指導権限を持つ部署に引き継いでくれます。
使用者から問題行為を受けているのであれば、まずは総合労働相談コーナーに相談してみてはいかがでしょうか。

弁護士

弁護士は法律の専門家です。残業代請求に必要な証拠の収集、残業代請求の請求書の作成、残業代計算などについて、アドバイスやサポートをしてくれます。実際に未払いの残業代を請求する場合にも、使用者側(会社側)に対して代理で請求を行ってくれます。

個人で会社と話し合いをしていくことは精神的にも負担がかかりますし、まともに話し合いに応じないケースや、残業代請求自体を無かったことにしようとする悪質なケースもあります。弁護士に依頼すれば、様々なサポートを受けられますし、「弁護士が付いている」というだけで未払い残業代を支払うケースもあります。

また、裁判になった場合は使用者側も弁護士をつけてくる可能性が高いので、その場合には個人で闘うのは難しいでしょう。弁護士に依頼するということは当然費用がかかりますが、このように安心して任せることができますので、残業代請求を考えている場合は、まずは1度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。