残業代を圧縮するために会社が用いる制度として,「固定残業代制」があります。
例えば,月給30万円の場合,「基本給」として30万円を支払うのではなく,「基本給」20万円+「固定残業代」10万円を支払うことで,一見すると,同じ30万円の給料のようですが,残業代の発生を抑えることができるのです。

①基本給30万円の人が,月に80時間残業した場合,未払い残業代は約17万円となります。

②基本給20万円,固定残業代10万円の人が,月に80時間残業した場合,未払い残業代は約1万5000円程度になってしまいます。

このように見た目は同じ30万円の給料ですが,固定残業代を用いることで,発生する残業代の額は,全然違ってきてしまうのです。

会社の中にはこの仕組みを悪用して,基本給を15万円,固定残業代を15万円にするなどして,極端に基本給の割合を減らして固定残業代の割合を増やし,100時間以上残業しても未払い残業代が発生しないような制度を取り入れている会社もあります。

しかし,そのような極端な固定残業代制については,以下のとおり,多くの裁判例で無効であるとの判断がなされています。
概ね80時間分を超えるような固定残業代については,裁判で無効にできる可能性が高いといえるでしょう。

固定残業代と戦う方法は他にもあります。固定残業代がでているからといって諦めずに,一度弁護士にご相談ください。

固定残業代に対して、無効と判断された裁判例

⑴ 東京高裁平成26年11月26日判決(マーケティングインフォメーションコミュニティ事件)

100時間という長時間の時間外労働を恒常的に行わせることが労基法の趣旨に反するものであることは明らかであるから,法令の趣旨に反する恒常的な長時間労働を是認する趣旨で,固定残業代の支払が合意されたとの事実を認めることは困難であるとして,100時間分の固定残業代の合意を認めなかった。

⑵ 東京地裁平成29年10月11日判決

36協定の締結による労働時間の延長限度時間である月45時間を大きく超える月100時間以上の時間外労働に相当する固定残業代は,公序良俗に反し無効であると判断した。

⑶ 東京地裁平成29年5月31日判決

月80時間を超える長時間の時間外労働を恒常的に行わせることが法令の趣旨及び36協定に反するものであることは明らかであるから,法令の趣旨及び36協定に反する恒常的な長時間労働を是認する趣旨で,固定残業代の支払が合意されたとの事実を認めることは困難だし,仮に,事実としてかかる合意をしたとしても,上記法令の趣旨に反する合意は,公序良俗に反するものであり,無効と解するのが相当であるとした。

⑷ 岐阜地裁平成27年10月22日判決

83時間相当の固定残業代について,83時間の残業は,36協定で定めることのできる労働時間の上限の月45時間の2倍に近い長時間であり,しかも,「朝9時半以前及び,各店舗の閉店時刻以後に発生するかもしれない時間外労働に対しての残業手当」とされていることを勘案すると,相当な長時間労働を強いる根拠となるものであって,公序良俗に違反すると判断した。