残業代を含む賃金請求権は,現在2年で時効とされています(労働基準法115条)。つまり,10年間会社に勤めてきた方が,退職直後にサービス残業代の請求をしようとしても,2年分しか請求できないこととなっています(なお,退職金の請求権だけは時効期間が5年となっています。)。
現在,民法改正との関連で,賃金請求権の「2年」の時効を「5年」に伸ばすべきではないかという議論がなされています。

なぜ,民法改正により,労働基準法に基づく2年の時効が議論されているのでしょうか。

実は,現在の民法では,労働債権の時効は1年とされています(民法174条)。しかし,そのように短い時効は労働者にとっては不利益だということで,労働基準法115条によって,時効期間が2年に延ばされていたのです。
つまり,民法の時効を,特別法である労働基準法によって伸ばしていたのです。

ところが,民法改正(2020年)により,労働債権を含むすべての債権の時効が「5年」とされました。それなのにこのまま労働基準法115条を改正しないと,民法の5年の時効を,特別法である労働基準法が2年に縮めてしまっている状況が生じてしまうわけです。

本来であれば,労働者保護のために時効を延ばすために作った労働基準法115条が,民法改正後は,逆に,時効を縮めることになってしまうわけです。これ,理屈を考えると明らかにおかしいですよね。

ですから,労働基準法を改正して,改正民法の原則どおり,賃金請求権の時効も5年にすべきではないか,という議論がなされています。

従業員が働いた分の給料をもらいたいというのは当然の権利です。また,働いている間は未払い賃金の請求など難しいので,どうしても請求は退職後になってしまうということから考えても,賃金請求権の時効を短期間に設定する合理性はないでしょう。
しかも,労働基準法115条が定められた経緯からしても,民法改正と同時に,賃金請求権の時効を5年に延ばすのは理屈としても当然です。
ところが,経営者側からは,中小企業にとっては時効が5年に伸びることは死活問題である,などという反対意見も出され,議論の結論は出ていません。
今後の議論を注視したいと思います。