記事監修

「残業代を請求したいけれど、職場の居心地が悪くなりそうだから退職する」
「サービス残業が多いので、仕事をやめてから残業代請求をしたい」

残業代請求をするほとんどの人が、このような考えを持っています。
では、退職後に残業代請求をするには、どうしたらよいのでしょうか。

1. 退職後に残業代請求はできるのか?

結論を述べてしまいますと、退職後であっても残業代を請求することはできます。残業代は残業をした時点で発生しており、退職をしたとしても権利は消えないからです。
退職後に残業代請求をするメリット・デメリットは以下の通りです。

メリット 職場でのしがらみがない →残業代は法律上発生する当然の権利です。残業代を請求したからといって、会社から不利益な扱いを受ける理由はありません。ただ、そうはいっても、会社に対して残業代請求をすると、職場に居づらく感じられることもあるかも知れません。そういった場合は、退職後、職場とのしがらみがなくなってから残業代請求をするのが望ましいと思います。 デメリット 残業時間を立証する証拠が手に入りにくい 過去の残業代が毎月時効となってしまう

2. 時効があるので計画的に

残業代を請求するときに気をつけなければならないのは、時効による消滅です。

これまで残業代を請求できる期間は2年間でしたが、民法改正によって3年間になりました。
2020年4月1日以降に支払われる賃金については、3年以内であれば請求することができるようになったということです。
但し、2020年4月よりも前に発生した賃金については従前どおり2年で時効になってしまいますので、注意が必要です。
また、この3年間の時効ですが、本来であれば「民法」と「労働基準法」の時効期間を合わせて「5年間」にするべきだとされています。改正後当面は3年間のままですが、様子を見て5年に延長するかどうかを検討する流れになっているようですので今後の動向には注目したいところです。

なお、誤解している方が多いのですが、「退職後時効期間が経過するまでに動けばいい」というのは間違いです。
残業代は、毎月の給料日から2年または3年経つごとに消えてしまいます。退職直後であれば2年分請求できたケースでも、退職から半年経てば、半年分は時効になってしまうのです。
ですので、残業代請求をお考えの方は、できれば退職前に弁護士に相談いただき、退職直後速やかに残業代を求める内容証明郵便を発送できるよう準備しておくのが望ましいです。

3. 在職中に準備しておきたい2つのポイント

退職後に残業代請求をするためには、在職中の準備が重要になってきます。以下の2つのポイントを抑えましょう。

①残業時間を立証する証拠を集めておく

退職後は、社内にある証拠を集めることが難しくなります。残業時間を立証できるもの(タイムカードや業務日誌など)や雇用契約、就業規則、賃金規程などは事前にコピーをとっておきましょう。また、タイムカードの制度がない会社の場合、パソコンのログが証拠となる場合があります。
在職中にご自分のパソコンのログを取得することをご検討ください。

パソコンのログの取り方はこちら

残業代の証拠についてはこちら

➁内容証明の準備をしておく

先に述べた通り、残業代は給料日から2年、2020年4月以降に発生したものは3年で時効にかかります。退職後すぐに内容証明が送付できるよう、弁護士への相談を行っておくことをお勧めします。
なぜ内容証明郵便を送らなければならないのかというと、時効を6ヶ月間中断させるためです。
会社に対して残業代の請求(催告)を行ったうえで裁判所に対して訴訟を提起すれば、催告があった時点で時効の中断があったものとされます。
このときの催告を内容証明郵便で送ることが大切で、後に裁判になった際に、きちんと「●月●日に●●催告した」という事実を証明することができるようになるのです。

内容証明郵便を送付しても、何もしないまま6ヶ月が経過してしまったら時効が完成してしまいます。話し合いで解決できなかった場合に備えて、並行して訴訟の準備などを進めていきましょう。

内容証明郵便の詳細についてはこちら

4. 話し合いで解決できなかった場合の残業代請求の流れとは?

話し合いで解決できなかった場合、その後の残業代請求の方法としては、①労働審判と➁民事訴訟の二種類があります。

(こちらでも解説しています「残業代請求では「労働審判」と「裁判」、どちらがお勧め?」

①労働審判

労働審判は、裁判官と労働審判員のもと、当事者の話し合いで解決を図る制度です。
労働審判を行う場合、まず裁判所に申立書を提出する必要があります。そして、申立書が受理されると、申立から40日以内に第1回の審判期日が指定されます。
期日では、双方同席のもと、または個別に裁判官や労働審判員から質問を受け、原則として3回以内の期日で調停による合意、または審判の言渡しが行われます。

メリット

  • 原則として3回以内の期日で審理が終わるため、迅速に解決できる

デメリット

  • 早期解決のために金額を譲歩しなければならないことがある
  • 弁護士に依頼しても、毎回本人も労働審判に出席する必要がある
  • 付加金(裁判所が支払いを命じる、最大で未払い残業代と同額)は支払われない

➁民事訴訟

いわゆる「裁判」です。裁判官による判決か、または和解により決着をつけます。

こちらも、まずは裁判所に申立書を出すところから始まります。双方が主張立証を尽くすまで続きますので、期日が何回行われるかはケースによって異なります。

メリット

  • 弁護士に依頼すれば、証人尋問等を除いて本人の出席は不要
  • 付加金が支払われることがある

→付加金とは、残業代未払いが悪質と判断された場合に裁判所が支払いを命じるものです。最大で残業代の金額と同額とされています。

デメリット

  • 訴訟が終了するまで長時間(場合によっては数年)かかる

5. その他の注意点

年俸制でも残業代は発生します。また、固定残業代制でも、そもそも固定残業代制自体が違法なケースがありますし、有効であっても固定残業代制で予定された残業時間を超えた分の残業代は支払われなければなりません。

「残業代込の金額だから、基本給がわからない」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、これは違法です。

いずれにせよ、残業代請求をお考えの方は、早い段階で、弁護士にご相談いただくのがよいかと思います。