記事監修

日本人は世界的に見ても働きすぎであるといわれます。実際に、働きすぎで過労死する人が後を絶ちません。
過労死とはどのような状態をいうのでしょうか。
また、どのような場合に過労死の危険性があるのでしょうか。

厚労省が定めた健康障害リスクが高まる「過労死ライン」とは?

「過労死」について、厚生労働省は次のように定義しています。

業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする死亡やこれらの疾患のこと

過度な残業や長時間労働を行った結果、脳疾患や心臓疾患など急激な体調の悪化を引き起こしたことによる突然死や精神障害を原因とした自殺などが過労死と判断されます。

過労死ラインとは、労働災害である「過労死」と認定される労働時間の目安です。
厚生労働省によれば、過労死ラインとは以下のような基準となります。

1か月あたりの時間外労働時間業務と発症との関連性発症前1~6か月間にわたりだいたい45時間以内関連性が弱い発症前1~6か月間にわたりだいたい45時間を超える関連性が徐々に強まる100時間を超える、または、2~6か月間にわたりだいたい80時間を超える関連性が強い

例えば、健康な40代の男性が脳卒中で亡くなったとします。
脳卒中は脳の血管が詰まったり破れたりすることで、ケガと異なり正確な原因はわかりません。しかし、脳卒中で亡くなる前の3か月間、80時間を超える残業をしていたとしましょう。
そうすると、この基準に照らして「業務と(脳卒中)発症の関連性が強い」ということになるのです。

これを、法律用語で「因果関係がある」といいます。
因果関係がある場合には、脳卒中は仕事が原因で引き起こされたと認定され、国から労災補償をうけることができます。

長時間の労働時間と健康障害発生の関係性とは

なぜ、長時間労働をすると死に至るのでしょうか。
過去の研究データによれば、月に60~80時間残業をすると、脳や心疾患のリスクが2~3倍になるそうです。

また、長く働けば働くほどストレスや疲れから精神状態も悪くなり、結果としてうつ病などの精神障害を引きおこします。
労働時間が長くなることに伴って1日の睡眠時間が減少することも問題です。
欧米の大学の調査によると、1日6時間未満の睡眠が循環器疾患(脳、心疾患、糖尿病、高血圧)のリスクを高めることがわかりました。(日本生活習慣病予防協会「短すぎる睡眠時間は生活習慣病の危険を高める」より)
このように、長時間労働とそれに伴う睡眠不足は間違いなく人の健康を害するものなのです。

過労死ラインを超えた労働の違法性

過労死ラインを超えて働くことの危険性についてわかりましたが、そもそも労働者を働かせすぎること自体は違法ではないのでしょうか。

労働基準法違反

まず、労働基準法第32条によって「法定労働時間」が定められています。
法定労働時間というのは「1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならない」というものです。
この法定労働時間を超えて労働、つまり残業させたい場合は、労働基準法第36条が定める労使協定を結んでおかなければなりません。

これがいわゆる36(サブロク)協定です。
そして、36協定によって一月あたりの残業時間の上限は45時間と決められています。
残業は36協定で決められた範囲内でしかできないため、これをオーバーしてしまうと労基法違反になります。

ただし、気をつけなければならないのが「特別条項付き36協定」の存在です。
特別条項付き36協定とは、予算期や決算期、バーゲン期などあらかじめ45時間を超える長時間の残業時間が見込まれる場合に備えて結ぶ協定になります。だからといって無限に残業させることができるというわけではなく、以下の上限が設けられています。

①1年の上限は720時間以内(法定休日※を除く)
②1か月の上限は100時間以内(残業時間と休日労働を合わせて100時間以内)
③複数月(2か月~6か月)の残業時間と休日労働の平均は月80時間以内

※法定休日とは労働基準法第35条に定められた休日のことで、使用者(役職に関係なく労働基準法各条の義務について一定の権限を与えられている者)は労働者に対して毎週少なくとも1回(または4週間に4回)の休日を与えなければならないと定めています。

使用者への損害賠償

特別条項付き36協定を結んでいるから月に80時間目一杯働かせることが許されるのかというと、必ずしもそうではありません。
使用者は労働者が生命身体が守られた状態で働くことができるよう配慮する義務を負っています。
それが労働契約法第5条に定められている「安全配慮義務」です。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

使用者がこの安全配慮義務に違反した場合、民法の規定によって損害賠償が発生することがあります。

具体的には、使用者側は健康診断を実施したり体調に合わせて業務を減らしたりする必要があるのですが、使用者がこれを行わなかった場合に損害賠償が認められる可能性があります。
これまでの裁判例を参考にすると、時間外労働が80時間を超えると、安全配慮義務違反が認められる可能性が高まるといえるでしょう。
過労死や過労自殺の事案で安全配慮義務違反が認められたケースでは、損害賠償額が1億円を超えたものもあります。

このように、前述の特別条項付き36協定が締結されていたとしても、使用者側は労働者の健康・福祉を確保するよう努めなければなりませんので、労働者が過重労働にならないように残業時間を設定されていなければなりません。

残業代未払い

労働基準法第37条によって、法定労働時間を超えて労働した時間については通常の労働時間の賃金計算額の25%以上の割増賃金を支払わなければならないとされています。
また、労働時間が月60時間を超えた場合は50%の割増賃金を支払わなければなりません(中小企業は2023年4月から施行されます)。
従業員が残業すればするほど残業代がかかることから、長時間の残業をさせているにもかかわらず残業代を支払わない使用者がいるのが現状です。残業代を支払わないのは、もちろん違法です。

一例を挙げると「名ばかり管理職」がわかりやすいのではないでしょうか。
労働基準法に定める管理監督者は労働者側には該当しないため、残業代が発生しません。
本来の意味の管理監督者であればそれに見合うだけの肩書きと手当が与えられているのですが、名ばかり管理職の場合は「部長」といった肩書きだけ与えられて無制限に残業をさせられて、実際の労働は一般の従業員とさほど変わらないのに残業代をもらうことができないといった具合です。
一時期話題になった「日本マクドナルド事件」の名ばかり店長がその良い例ではないでしょうか。
この事件の店長は月100時間を超える残業をしていましたが、実際のところは管理監督者には該当しないと判断されています。

(名ばかり管理職については、こちらで詳しく解説しています。「「名ばかり管理職」でも残業代は貰えます。」)

過労死の症状例と前兆

過労死になる前には、前兆があります。以下のような症状が出た場合には、すぐに休息をとり、病院に受診しましょう。

①脳卒中(脳梗塞、くも膜下出血など)

  • ろれつが回らなくなる
  • 片方の手足に力が入らなかったり、しびれている
  • 人の話している内容を理解できなくなる
  • めまいがして歩くことができない
  • ひどい頭痛がする

➁心疾患(心筋梗塞、虚血性心疾患など)

  • 胸やみぞおちが突発的に痛む
  • 胸が締め付けられるような感じがする
  • 少し動いただけで息切れがする
  • 体がむくむ
  • 左肩や背中が痛い

③うつ病

  • 一日中憂鬱な気分になる
  • 死ぬことばかり考える
  • よく眠れない
  • 集中力が低下する
  • イライラする

長時間労働が原因であれば労災認定の可能性も

働きすぎが原因で病気になった場合、労災として認定され補償を受けられることがあります。
ただし、業務上のケガと異なり、もともと病気の原因を持っている可能性があることから、病気の場合は認定が厳しいです。
そこで、労災と認定されるためには以下の要件を検討する必要があります。

労災認定されるための要件

業務量が多いこと もともと病気の原因があったか、あったとしてどの程度か 仕事のほかに、病気を悪くさせる要因がなかったか でもともと病気の原因を持っていたとしても、労災が認められることはあります。実際の裁判例でも、もともと脳動脈瘤を持っていた人が脳卒中になったケースで、労災が認められています。

違法である場合の対処法

では、違法である可能性があるとわかった場合はどのように対処すれば良いのか確認しておきましょう。

労働基準監督署に報告する

例えば特別条項付き36協定を締結していないのに月45時間を超える残業をさせられる、特別条項付き36協定を締結しているが月80時間を超える残業が半年以上続いている…といった場合は、労働基準監督署に報告をすれば、労働基準監督署による調査が行われ、労働基準法違反が確認されれば是正勧告(改善すべき事項に対する指導)がなされます。
匿名で報告することができるので、在職中でも報告を行えるでしょう。
ただし、恒常的に残業している証拠を揃えておくなどきちんと根拠がなければ労働基準監督署は動いてくれませんし、重要度が低いと判断されれば速やかに対処してくれない可能性もあります。
また、裁判とは異なりあくまで「指導」ですのであまり効力が強いとも言えません。

弁護士に相談・依頼する

是正勧告を行っても改善しない、直談判したくても取り合ってもらえないといった場合は弁護士に相談・依頼をしましょう。
過労死ラインに至る残業をさせられているということは、長時間の残業を解消するといった問題の他に、長時間労働によって引き起こされた身体の不調に対する慰謝料や損害賠償、未払い残業代が発生している可能性があります。一度、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか?

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
ご相談料は0円、初期費用も0円の完全成功報酬にてご依頼いただく事が可能です。まずは、お気軽にご相談ください。