会社に残業代を請求しても話合いに応じてくれない場合,より強制的な手段として可能なのが「労働審判」と「裁判」です。
それぞれの手続について,実務的な観点から,メリットとデメリットをご説明します。

1 労働審判とは

労働審判というのは,裁判と同じく裁判所で行われる手続です。労働審判は,話合いと裁判の中間的な手続で,裁判官が間に入って事案を整理し,なるべく短期間に双方の合意による解決を目指す手続です。

2 解決までの時間

裁判をすると,解決までに2年も3年もかかる・・・そんな話を聞いたことはありませんか?
一昔前は,裁判での解決にはかなりの長期間がかかっていました。最近は,裁判の期間もずいぶん短縮されてきています。ただ,そうはいっても裁判では双方が主張を徹底的に戦わせる手続ですので,半年で解決すれば早い方,複雑な事件では1年以上かかることもよくあります。やはり解決までの時間が長いのは裁判の短所ですね。

他方,労働審判というのは短時間の解決を目指す手続であり,申立てから手続きの終了まで,1か月半~3か月ほどとなります。労働審判が開かれる期日は,多くても3回までと決められています。

そういった手続きですので,あまりに複雑な事件を緻密に解決しようとする場合は,労働審判は向きません。双方の主張が中途半端なまま期日が過ぎてしまい,消化不良のまま双方が合意できずに手続が終わることがあります。

労働審判の結果にどちらかの当事者が納得できずに異議が出された場合,労働審判は裁判に移行します。せっかく短期解決のために労働審判をしたのに,結局一から裁判をし直すことになり,却って時間がかかるということもあります。

3 ご本人の出席の要否

弁護士に依頼して裁判をする場合,裁判には弁護士が代理で出席しますので,ご本人が毎回の裁判に出席する必要はありません。ごくまれに証人尋問を行うケースがありますが(残業代請求訴訟ではその割合はあまり高くない印象です),その場合には1回だけ裁判所に来ていただくことになります。

他方,労働審判には原則としてご本人が出席いただくことになります。特に初回の期日では,ご本人が出席して,その場で裁判官からの質問に答える必要があります。その場には,会社の人(社長や人事担当者)と会社側の弁護士も出席していますので,裁判所で(元)勤務先の人とどうしても顔を合わせたくないケースなどでは労働審判は使いにくいですね。

4 立証の程度

裁判に勝つためには,実際に労働した時間についてタイムカードやデジタコ等の証拠により立証する必要があります。そのような証拠がないケースや自分のメモなどの弱い証拠しかないケースでは,裁判での勝ち目が見通せない場合もあります。裁判の判決というのは基本的には0か100の世界なので(その間の割合的な認定ということもありますが。),証拠が十分でないケースでは裁判にトライするのに躊躇される場合もあります。

この点,労働審判はあくまで話合いでの妥当な解決を目指す場面で,裁判官も事案の妥当な解決を見極めようとする傾向にあります。ですので,証拠としては万全ではないが,全体を説明すれば裁判官にも分かってもらえるケースなどでは,労働審判での解決を試みる方がよいと思います。

他方で,証拠がばっちりそろっていて,立証の問題はなく,明らかに勝てそうな事案で,一歩も譲歩したくないというケースであれば,労働審判での話合いよりも,裁判で白黒はっきりさせる方がよいでしょう。

4 その他の違い

労働審判の場合は付加金がつきませんが,裁判での判決の場合は付加金がつく可能性があります。とはいえ,裁判の場合でも最終的には和解で解決するケースが多く,その場合には付加金はつけられませんし,負けそうになった相手方が任意で残業代を払えば付加金は付かないので,実際の差はあまりありません。

また,裁判は一般に公開されている手続で誰でも傍聴できますし,判決も公開できますが,労働審判は非公開の手続です。会社側の立場では,裁判が公開されて他の社員からも残業代請求されてしまったり,ブラック企業という評判が立ってしまうことを考えると,裁判が起きることはプレッシャーになると思います。

このように,労働審判と裁判どちらもメリットデメリットのある手続です。どちらの手続きを選択するかは,労働事件の経験の豊富な弁護士の知見の見せ所でもあります。