最近、長時間労働の問題が世間を騒がせています。

日本では「サビ残(サービス残業)」など残業の慣行が残っている企業が多いですが、長時間労働を行うと、うつ病などの精神疾患にかかり、最悪の場合自ら死を選んでしまうこともあります。症状が悪化する前に、「労災(労働災害)」を受けることを検討してみましょう。

1.長時間労働の影響

長時間労働をすると、体にどのような影響が生じるのでしょうか。

長時間労働は体に強いストレスを与えるだけでなく、睡眠時間や休息時間を減らしてしまいます。これにより、交感神経が活発になり、体にストレス反応が生じます。

その結果、脳や心臓に負荷をかけ、脳梗塞や心臓疾患を引き起こしてしまうのですまた、仕事に対する心理的負荷から、うつ病などの精神障害・精神疾患を引き起こすこともあります。

2. 精神障害の労災認定要件

長時間労働の結果、病気にかかると、国から労働者に対し労災補償がなされることになります。
では、どのような場合に、この労災認定がおりるのでしょうか。

労災認定のための基準

  1. 認定対象となる精神障害を発病していること
  2. 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 用務以外の心理的負荷や固体側要因により発病した場合とは認められないこと

という3つの要件を充たす必要があります。
以下ではこの要件についてひとつずつ見ていきましょう。

3. 認定基準の対象となる精神障害かどうか

心理的負荷による労災認定がなされる場合、まずは厚生労働省の認定基準に適合する精神病と診断されなければなりません。
具体的には「国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第Ⅴ章『精神および行動の障害』に分類される精神障害」であって「認知症や頭部外傷などによる障害およびアルコールや薬物による障害」は除くとされます。

専門的なので難しく思われるかもしれませんが、うつ病や急性ストレス反応などはすべてこれに含まれます。ただし、いわゆる心身症は含まれませんので注意しましょう。

4. 業務による強い心理的負荷

次に、認定がおりるためには「業務による強い心理的負荷」があるといえなければなりません。厚生労働省が「業務による強い心理的負荷表」というものを作成していますので、これを参照しながら心理的負荷の程度を評価しましょう。

心理的負荷は「強」「中」「弱」に分けられており、心理的負荷が「強」であればこの要件を充たします。例えば、発病前の2か月間連続して1か月あたりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合や、電車の運転手が人をひいてしまい、人身事故の処理にあたった場合などが「強」にあたります。

5. 「自殺」の取り扱い

労働者が長時間労働をし、結果として自殺した場合でも、一概に長時間労働のせいと判断することはできません。何か他の理由があるかもしれないからです。
そこで、労災認定においては「自殺行為が業務に起因したうつ病の症状として発現したと認められる場合」には自由な意思で自殺したのではなく、長時間労働によるものであると定めています。

具体的には、まず精神障害を発生させるような過重労働、パワハラ、セクハラの認定を行います。その上で、このような事情と死の関連性(相当因果関係)を否定する事情がないかを検討します。例えば月100時間以上の残業をしていた場合であっても、長年持病に悩んでいた、という事情があれば相当因果関係は否定され、労災認定はおりないのです。

6. 「発病後の悪化」の取り扱い

長時間労働以外の原因で精神病になり、長時間労働をしたせいで病状が悪化した、という場合、労災は下りるのでしょうか。

残念ながら、この場合には労災と認定するのは難しいです。悪化の原因が本当に長時間労働によるものなのかが判別できないからです。

ただし、「業務による強い心理的負荷表」において「特別な出来事」があり、その後「おおむね6か月以内に精神的障害が自然的経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合」に限り、悪化した部分について労災認定がおりることになります。

7. 「治ゆ(症状固定)」とは

労災における「治ゆ」とは「健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうものではなく、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態」と定義されます。

そして、長時間労働により精神障害に陥った場合でも、病状が治ゆしてしまえば、それ以上の労災補償はなされません。つまり、完全に治っていなくとも、症状が固定してしまえば労災の対象とはならなくなるのです。

8.まとめ – 悪化する前に休職を

長時間労働により精神病になると、正しい判断をすることができなくなります。

「仕事に疲れたな」「最近調子がおかしいな」と感じたら、まずは休職し、労災を申請するようにしましょう。
「手続きがわからない」「休業に際し不安がある」という場合には、大したことではないと思わずに、弁護士に相談することをおすすめします。