残業代を請求するとき、気をつけなければならないのは時効による消滅です。残業代も、給料日から2年たつと時効によって消えてしまい、それ以降請求できなくなってしまうのです。
では、残業代が時効にかからないようにどのような対策をすればよいのでしょうか?
今回は、時効を止める、「時効の中断」という制度をご紹介します。

時効の中断事由(民法第147条)とは?

「時効の中断」とは、一定の事由があると時効が完成しなくなるという制度です。
具体的には、民法147条に規定があります。

第147条(時効の中断事由)

時効は、次に掲げる事由によって中断する。

(1)請求
(2)差押え、仮差押え又は仮処分
(3)承認

条文によれば、時効の中断には、「請求」「差押え、仮差押え又は仮処分」「承認」の三つの方法があります。給料日から2年の間に、これらの方法を取っておけば、時効が中断するのですね。
ここで、時効の中断についてひとつ知っておいてほしいことがあります。それは、時効の中断の性質についてです。この制度は「中断」という名前がついているものの、時効がストップするのではありません。実は、はじめからリセットされてしまう制度なのです。例えば、給料日から1年3か月たっていたとしても、「時効の中断」にあたる事由があれば、再び2年からカウントダウンが始まります。
つまり、中断事由がある場合には、いつまでたっても時効は完成しないのです。

なお、「残業代の時効は2年」ということで勘違いをしている方も多いのですが、”退職後2年間は残業代が請求できるから大丈夫”とは思わないでください。給料日が来るたびに、2年前のその月に支払われるべきだった残業代が1か月分ずつ時効になってしまいます。ですので、退職直後に請求すれば2年分取れた残業代も、退職後1年経ってしまうと1年分しか請求できなくなってしまうのです。

(1)請求について

時効を中断させる「請求」の方法についてご説明します。
ここでいう「請求」とは、単なる請求ではなく、裁判上の請求まで行う必要があります。残業代請求の場合、裁判上の請求には主に2種類あり、①民事訴訟による方法と➁労働審判による方法が挙げられます(その他に、調停の申し立ての場合にも、時効は中断します)。

①民事訴訟による方法とは

裁判所に残業代請求の申立てをすることです。
訴状を提出した時点で、時効が中断します。

➁労働審判とは

裁判所において労働審判委員会を間に挟み、当事者で話し合いをすることです。
労働審判の場合も、裁判所に労働審判の申立てをしたときに時効が中断します。

しかし、いざ残業代請求をしようと思っても、タイムカードが手元になかったり、会社の就業規則がなかったりして、未払い額の算定すら容易ではありません。未払い額を調べているうちに、どんどん古い残業代が時効になってしまうのを防ぐために、「催告」という制度があります。裁判所を使わずに自分で「きちんと残業代を支払ってください」と請求することです。
催告をしたことを証拠として残す必要があるので、内容証明郵便で行うことが多いです。この「催告」を行っておけば、6か月間は時効がストップします。その間に、証拠収集や計算等を行い、残業代の交渉を行っておき、交渉が成立しなければ6か月以内に訴訟を起こしておけば、時効を最小限に抑えることができます。

(2)差押え、仮差押えまたは仮処分について

時効を中断させる方法として、差し押さえ、仮差押え、または仮処分をすることが挙げられます。これらは、民事執行と呼ばれる手続きで、訴訟で勝訴した場合に相手が任意で支払いをしないときに取る手段になります。具体的には、会社の財産を差し押さえて競売にかけ、強制的に残業代を回収するのです。
残業代請求をする場合に、民事執行まで行くことはほとんどありません。会社の外聞などもあるので、裁判で負ければきちんと支払ってくれるでしょう。しかし、万が一判決が出たにもかかわらず支払われない場合には、差し押さえができるということを覚えておくと良いですね。

(3)承認について

承認とは、使用者が未払いの残業代の存在を認めることです。
例えば、

  • 使用者が「きちんと残業代は払うから、もう少し支払いを待ってくれ」と言った
  • 使用者が少額でも追加で残業代を支払った
  • 労働組合との話し合いの場で、残業代未払いを認めた

などの事情があると、債務の承認があったとみなされます。
ここで注意してほしいのは、きちんと時効を停止させるためには証拠を取っておく必要があるということです。特に承認は、「いった」「いわない」の水掛け論になってしまいますので、必ず書面か音声データを残しておきましょう。